吉本 文香(ランドスケープアーキテクト)
新米ランドスケープアーキテクト。2年間イギリスでランドスケープデザインを学び、大好きな北海道に帰ってきた。趣味はサイクリングとスケッチ散歩。
つくるって、いろんな漢字がある。作る、造る、創る。「創」はいったいどんな成り立ちだろうか。 「創」の部首は「刂(りっとう)」。刀や刃物という意味がある。刃物で木を切って、倉をつくった様子が漢字の成り立ちだという説明が多い。部首が刃物なだけに、「創」には「傷」という意味もあるようだ。そういえば、絆創膏の「創」である。創ることの始まりは、今あるものに傷をつけること、なのかもしれない。
さて、「ドライブと創」という素敵なテーマで私が原稿を書かせていただいているのは、私もなにかを「創る」仕事に就いているからだ。
「人と人以外のあらゆるものが心地よく過ごせる空間」を創りたくて、ランドスケープアーキテクトという職能を目指した。あまりよく聞く言葉ではないかもしれない。ランドスケープは風景、アーキテクトは建築なので、風景の建築家。その土地の歴史やそこに住む人々の文化を紐解き、その土地の自然や、そこに住む人々と対話しながら、庭や、公園や、広場といった屋外の空間を創る。夢いっぱいの仕事だ。 広島県出身の私は、北海道の大学を卒業後、2年間イギリスでランドスケープデザインを学び、晴れて希望の仕事についた。「ここは私が創りました」そう言える日はずっと先になりそうだが、毎日「創る」現場にいることにワクワクしながら、いろんなことを学んでいる。
私の好きなランドスケープデザインは、その土地らしさを大切にしたものだ。 とある場所を設計するとなると、その土地を取り巻く環境や歴史など、綿密に調査を行ってその土地らしさを探り、デザインのきっかけにする。 しかし面白いことに、何がその土地らしいか、というのは、どこか他の土地と比較して初めてわかることでもある。
広島から北海道に来て、北海道の空と大地の大きさや、真っ白な雪に驚いた。広島とは比べものにならないスケール感に、いちいち感動した。と同時に、広島ほど川や橋が多い街、瀬戸内海ほど島だらけの海が、どこにでもある風景ではないことにも気づいた。大好きなキンモクセイの香りも、北海道にはなかった。帰省するたびに、北海道らしさ、広島らしさを発見し、どちらの土地も、好きになるのだ。
2年間のイギリス生活もまた、発見に満ちたものだった。言ってしまえば日本とイギリスでは何もかもが違ったが、細かく紐解いていくと、それは気候だったり、植物だったり、建物や道の素材だったり、道ゆく人々の背丈や服装だったり、はたまた聞こえてくる言語、食文化、漂っている匂い…あらゆる些細なものが積み重なって、日本とは違う、イギリスらしい風景をつくっていた。
時々普段の生活から抜け出して、いろんな場所へ旅をすること。新しい風景の中に身を置いて、自分の当たり前に「傷」をつけ、その土地らしさに気づくこと。それが私の「創る」の第一歩だ。私が創った場所で笑顔になる人々の姿を夢見て。