萩 佑(はぎ たすく)
NPO法人北海道遺産協議会 事務局
北桧山町(現・せたな町)生まれ、札幌育ち。北海道遺産プロジェクトの事務局として20年近く道内の地域遺産の保全活用のサポートを行う。北海道ヘリテージコーディネーター。趣味はスキー・各地の歴史的建物を訪ねること。
道ができると場所と場所とがつながる。そうすると人や物が行きかうようになり、経済や人と人とのつながりができる。私自身、北海道で生まれ育ち、学生時代はスキーに熱中し、道内各地の山やスキー場に出かけた。社会人になってからは行動範囲が広がり、道内179市町村全て一度は訪れており、ありがたいことに各地で暮らす友人・知人も増えた。
こうしたつながりはいわば面的、ヨコのつながりといえる。さらに現代ではインターネット上で瞬時に世界各地とつながることができる。もちろん良い面もあるが、やはり実際にその場所を訪ね、いろいろな人と直接会うことを大切にしたい。
もう一つ、タテのつながりというものを考えてみたい。すなわち過去とのつながり、歴史を知る楽しさである。歴史を知ることで時間と距離を超えて何十年、何百年、何千年前の人々ともつながることができる。歴史の勉強というと、年号と出来事の暗記ばかりで…というイメージがあるかもしれないが、興味を持った人物や時代を中心にそのストーリーを知ると面白さが増してくる。
以前に道南の箱館戦争の遺構を訪ねるバスツアーに参加したことがあった。森町の鷲ノ木は、榎本武揚や土方歳三が率いる旧幕府軍が上陸した場所として知られている。バスから降りて眺めてみると普通の海岸が広がっているだけだったが、案内役の方の解説を聞いた途端、目の前の海に旧幕府軍の船が現れて、たくさんの兵士が次々と上陸している様子がはっきりと目に浮かんだ。この時の案内役は作家の方で、その語りが秀逸だったこともあるが、歴史のストーリーを知ることの楽しさと大切さがよくわかった。
「北海道遺産」は、次の世代に残したい北海道ならではの宝物を北海道遺産として選定し、それらを地域で守り、育て、活用していくことで新しい北海道の魅力につなげようという取り組みで、2001年の第1回選定以来これまでに4回の選定が行われて、74件の北海道遺産が誕生している。また、毎年開催される交流会議等を通じて各地での保全活用に関わる担い手の皆さんのヨコのつながりづくりも進められている。いわば、北海道の"タテ糸""ヨコ糸"を紡ぎ、織っていくことが北海道遺産の取り組みであり、それらによって北海道の観光やまちづくりにより"深み"が出てくるのではないかと考えている。
先日、「つながる追分 オンライン交流会」というイベントが開催された。これは安平町追分駅の他に秋田、滋賀、三重、それと台湾にある同じ名前の追分駅をつないで交流しようというもので、ちょうど各地の追分駅が周年を迎えるのと合わせて行われた。各地の追分駅の歴史の紹介や、台湾からは子供たちの吹奏楽の演奏や駅長さんによる駅の案内など、各地の駅の歴史をきっかけに各地の人と人がつながるとても良いイベントだった。今回はオンラインの開催だったが、ぜひ各地を訪れてみたいと思った。小さなきっかけかもしれないが今こそこうしたつながりづくりを大事にしていきたい。