vol.32
冬春号 '23-'24 (2023/12)
"北海道の生き物と和む" 佐藤ひかり

佐藤ひかり(張り子作家・美術家)

1975年京都生まれ、札幌育ち。札幌市立高専で美術と環境デザインを学んだ後、英国ロンドンのチェルシー大学、大学院でアートを学ぶ。短大の講師やアート教室、アートマネジメントの仕事などを経て、現在、北海道の生き物を題材にした張り子を制作している。

北海道の生き物と和む
佐藤ひかり

北海道をドライブしていると、野生動物に出くわすことがある。動物好きの私は、心が躍り、思わず頬が緩んでしまう。可愛らしい生き物たちの存在は、究極の〝和み〟だと思う。

 

道路の真ん中に座りこみ、不思議そうにこちらを眺めるキタキツネ。車が近づいても、道路に横たえた尻尾をぴくりとも動かさず、こちらをキョトンと見つめている。おそらく、春に生まれて親離れしたばかりの若ギツネで、まだ体は華奢で小さく、毛並みはフサフサと美しい。ひょっとすると、車を見るのは生まれて初めてだったのかもしれない。いつまでもボーッと見ているばかりで、一向に避けてくれないので、仕方がない。「ごめんね、悪いけど、ちょっと通してくれる?」と言って、クラクションを鳴らすと、ようやくハッとした表情になって、「この変なモノ(車)は、危険なのかもしれない」と思ったらしい。草むらに退散してくれたので、ホッとした。

北海道でキタキツネはよく見かけるが、エゾタヌキは滅多に見かけない。たまに遭遇する時は、山間の道路で夜間に出くわすことが多い。ある夜道、エゾタヌキが二匹(実際には、タヌキと思われるモコモコした丸いお尻が二つ)、フラフラと歩いていた。逃げようとする気配は全くなく、右に左によろよろ歩くので、危なくて追い抜くことができない。仕方なく、タヌキのペースに合わせて、そろそろと後ろからついて走る。ヘッドライトに照らされても、振り返りもせず、マイペースに歩くタヌキたち。…こんなに至近距離なのに、車に気づいていない?それとも、これでも、全力で逃げている(つもり)??あるいは、車が危ないモノとすら認識していなくて、全然、気にしていない???ヒトに遭遇したらサッと逃げるのが野生動物だと思っていた私は、無防備なタヌキたちに愛嬌を感じて、思わず笑ってしまった。たまには、タヌキと一緒に走るドライブも楽しい。

タヌキ同様に出逢うことが難しいけれど、遭遇すると最高に和むのは、エゾモモンガ。案外身近なところに生息していて、札幌の公園で見かけたことがある。さほど大きくない木の小さな樹洞に、エゾモモンガがいるという噂を聞いて、カメラを持参して日暮れ時に待ち構えた。眠そうな顔をしたモモンガが顔を覗かせた時は、嬉しくて大興奮!モモンガは、しばらく外の様子を伺った後、するりと抜け出して用を足した。(そうそう、起きたらまずトイレに行くよね、と、妙に納得してしまった。)そして、あっと言う間に樹の上までよじ登り、パッと皮膜を広げてスーッと30mmぐらい先の木まで飛んだ。その様子は、まるで紙飛行機のように滑らかな滑空で、あまりの軽やかさと飛距離の凄さに目を見張った。

自然が近い北海道では、野生動物に出会えるチャンスが多い。ぜひ、意外と身近にいる生き物たちの気配を感じてほしい。出会えた時には、最高の〝和み〟を感じられること、間違いない。

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